オピネル展示室

その一

オピネルとは何か?---私とオピネル


私とオピネルとの出会いは1982年に遡ります。
当時フランスに住んでいた私を、同じアパートの友人ふたりが海岸までドライブに誘ってくれました。頃は10月、南仏ボルドーの海岸とはいえ泳ぎたくなるような気温ではなく、海辺にはカモメしかいません。でも、天気だけは良かった。近くの畑ではもうじきワイン用の葡萄摘みが始まろうとしていました。

三人は海岸近くのスーパーマーケットで赤ワインとパン、ハム、さらにそれを切るためのオピネルNo.6を買いこみ、広々とした砂丘の上で昼食をとりました。おろしたてのオピネルが硬い皮をかぶったフランスパンに音もなくすいこまれていく感触が、今もこの手に残っています。
その後、オピネルには用途別に様々なサイズと形状のあることを知り、私のコレクションが始まりました。

現在は100本以上を所有します。おりにふれて発売される記念モデル以外はほとんど実用してしまうため、コレクションとはいえ、未使用の物は滅多にありません。でも、これがオピネルの正しい収集方法であると私は信じます。
これは飾られるために作られたナイフではありません。作り手の気持ちを大事にするのが使い手の礼儀でありましょう。

えてみると、普通のオピネルは大きさは違ってもどれも同じ形なので、
一堂に集めた写真でなければ違いはわかりませんね。
上の写真はNo.2〜No.12までです。
No.13だけはとびぬけて大きいのでここには載っていません。

オピネルは百年以上前にフランスのサヴォワ地方の山村で生れました。日本でも古くから登山家やキャンプ愛好家のあいだで当たり前の道具であったようです。ごらんのとおり暖かみのある木のハンドル(柄)と、炭素鋼(錆びやすい)のブレードからなるオーソドックスな、ナイフらしいナイフです。本国では数百円で買える値段であり、消耗品と考えられています。
木のハンドルも特殊な加工がなされているわけではく、数年も使い続けるとボルスター(ハンドルの首の部分。これがブレードをつかまえている)が緩みガタガタとなり、炭素鋼のブレードは錆びつきます。それでも一本のオピネルが10年以上にわたって使われ続けることは稀ではありません。少々の狂い(ブレードのがたつき)は手の馴染みが
おぎなうのです

オピネルを多少なりとも知っている人たちは、私が100本以上も持っていると言うと驚きます。なにせ、大きさこそ違え、ほとんど同じ形をしているのですから。でも、違いはそれだけではないのです。
このハンドルの写真の左の5本はすべてNo.6です。どれもロゴが違い、左へ行くほど古いモデルです。右の2本はNo.8の最新モデル。黒いロゴが昔ながらの炭素鋼モデルで、赤がステンレスです。真ん中のハードウッドのハンドルにもかつては白抜きのロゴがあったのですが、もう薄くなって良く分かりません。

右はブレードに彫られているマークです。左上から右下まで年代順に並んでいます。左側には「十字と棕櫚」、「サヴォワの十字」、「冠を被ったオピネル」、「サヴォワイヤール・フランス」。そして右側に現行の「冠を被った手」シリーズが5種類並んでいます。
左に並んでいるものはかなり古く、現在ではコレクターズアイテムとして珍重されるものばかりです。写真をおくってくれた Jean BUARE氏 は特にこのタイプのコレクションをしているそうです。私も数本だけ所有します。

最近はステンレスのブレードを持つモデルが増えました。実を言えばあまり好きではありません。切れ味は格段に落ちます。ただしメンテが楽なので、食事用に会社の引き出しに一本入れてあります。下の写真の中央にあるのがそれです。10年以上も愛用するこのオピネルは、紫檀のハンドルを持つため狂いが少なく、これで炭素鋼のブレードであったならば・・と、つくづく思います。
このモデルは日本では見たことがありません。本国でもおそらく廃番でしょう。この三本は私の宝物中の宝物であります。

このモデルは凝った造りをしており、ブレードをロックするリングが他のモデルと違います。たたんで持ち運びするときにも刃が飛び出さぬようにロックできるようになっています。このメカニスムは13にも採用されています。

右が刃をしまっただけの状態で、左がロックされている様子です。

とまぁ、導入部分があまり長くてもダレますので、このへんでやめましょう。さっそく小さいモデルの紹介を次の部屋から・・・。